「民法の一部を改正する法律」について
今回は保証契約についてみていきます。
保証契約とは
「保証契約」とは借金の返済や代金の支払いなどの債務を負う「主債務者」がその債務を履行しない場合に、主債務者に代わって支払いをする義務を負うことを約束する契約です。
連帯保証契約とは
「連帯保証契約」とは、保証契約の一種ですが、主債務者に支払できるだけの財産があるかどうかにかかわらず、債権者は保証人に対して支払いを求めたり、保証人の財産を差し押さえたりすることができるものです。保証の範囲が広く、重い責任が課されます。
根保証契約とは
「根保証契約」とは一定の範囲に属する不特定の債務について保証する契約をいいます。保証人となる時点では現実にどれだけの債務が発生するかがわからず、主債務の額がはっきりしないため想定外の負うことになりかねませんでした。
子どもがアパートを賃借する際に親が保証人になるケースや、会社の社長が会社の取引先との間で、会社の取引先に対する債務を保証するケースなどがあります。
友人や親せきなどに「迷惑をかけないから」とか「名前を貸してほしい」などと頼まれて断り切れなかったり、保証契約の内容について十分に理解せず安易に保証人となった結果、保証人が多額の債務を負い生活が破綻してしまうということが数多くありました。このような状況になることを防ぎ、保証人を保護するため保証に関する新たなルールが設けられました。
保証契約に関する民法改正のポイントについて
極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約について
主債務に貸金等債務(金銭の貸渡や手形の割引を受けることによって負担する債務)が含まれる根保証契約について個人が保証人となる場合には、極度額を定めなければ契約は無効とされていました。今回改正でさらに幅広く賃貸借契約や継続的な売買契約などおいても個人の保証人を保護するルールが設けられました。
極度額の定めのない個人の根保証契約は無効に
個人が保証人になる根保証契約については、保証人が支払いの責任を負う金額の上限となる額(極度額)を定めなければ保証契約は無効となります。この極度額は書面等により当事者の合意により定めなければなりません。保証人は極度額を超える部分に関しては支払いの責任を負いません。
極度額を定めずに根保証契約をしてしまうと契約は無効となり、債務者は保証人に対して支払いを求めることができなくなりますので、注意が必要です。
保証人が破産宣告を受けたときや、主たる債務者又は保証人が死亡したときは主たる債務の元本が確定し、その後に発生する主債務は保証の対象外となります。
公証人による保証意思確認手続きの新設
個人が事業用の貸金等債務が含まれる根保証契約の保証人になろうとする場合、公証人による保証意思の確認を経なければ保証契約は無効となります。これにより事業に関与しない親せきや友人などが安易に保証人になることにより財産的リスクを負うことを予防します。
契約に先立ち契約締結前1ヶ月以内に作成された公正証書により保証意思を表示しなければなりません。
なお、この意思確認の手続きは書債務者の事業と関係の深い次のような方については不要です。①主債務者が法人であるとき:その法人の理事、取締役、議決権の過半数を有する株主等 ②主債務者が個人であるとき:主債務者と共同して事業を行っている共同事業者や、主債務者の事業に現に従事している主債務者の配偶者
この意思確認手続きに関しては2020年3月1日から施行されています。
保証人への情報提供義務の新設
保証人になることを依頼する際の情報提供義務
保証契約を結ぶ前に、主債務者は保証人になるかどうかの判断に資する情報として①主債務者の財産や収支の状況 ②主債務以外の債務の金額や履行状況に関する情報 を提供しなければなりません。
主債務者がこれらの情報を提供しなかったときや、事実と異なる情報を提供したためにそれらを誤認し保証人となった場合、債権者ががそのことを知り、又は知ることができたときは保証人は保証契約を取り消すことができます。
このルールは事業用の貸金に限らず、売買代金やテナント料などの債務を保証する場合にも適用されます。
保証契約締結の際は情報提供をしたことがわかるものを残しておくことが重要です。
主たる債務の履行状況に関する情報提供義務
主たる債務者の委託を受けて保証人となった場合には、保証人の請求があったときは、債務者は主債務についての支払いの状況に関する情報の提供をしなければなりません。
この情報提供は法人である保証人も請求することができます。
主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務
「期限の利益」とは期限が来るまで債務者は債務の履行をしなくてよいという利益のことです。契約の際に「〇年〇月〇日までに支払う」という定めがある場合、その期限までは支払いが猶予されます。
「期限の利益の喪失」とは期限の利益がなくなってしまうことです。期限の利益を喪失するとすぐに債務の全部を履行しなくてはなりません。分割払いであっても一括で支払わなければなりません。
民法では●債務者が破産手続き開始の決定を受けたとき ●債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき ●担保を提供する義務を負う場合において、これを供しないとき に期限の利益が喪失すると定めています。
民法以外にも契約によって 約束の期日までに支払いをしなかったときや、契約違反・契約の際虚偽の申告をしたときには期限の利益を喪失するというような条項が定められることがあります。
債務者が期限の利益を喪失すると遅延損害金が大きく膨らみ、早く支払いをしないと保証人にもその支払いを求められることになります。遅延損害金とは債務者が支払いを怠ったことにより債権者が被った損害のことです。
主債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者はその利益の喪失を知ったときから2ヶ月以内に個人保証人に対してその旨を通知しなければなりません。期間内にその旨の通知をしなかったときは、債権者は債務者が期限の利益を喪失したときから、通知をするまでの遅延損害金に係る保証債務の履行を保証人に請求することができません。