2017年5月に成立した「民法の一部を改正する法律」が2020年4月1日から施行されました。民法の中で契約等に関する基本的な定めがされている「債権法」については1896年(明治29年)に制定されてから約120年間にわたり実質的な見直しがほとんど行われていませんでした。
今回の改正では①社会変化への対応を図るための実質的変更と②現在の裁判や取引の実務でも通用している基本的なルールを法律の条文上も明確にし、読み取りやすくする改正を行っています。
今回は売買に関するルールについてのポイントをみていきます。
売買とは当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がその代金を支払うことを約することによって効力を生ずる契約です。
売買に関する改正のポイント
「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ
改正前の民法では、売買の目的物に通常の注意を払っても気が付かないような「かくれた瑕疵」(キズ、欠陥、不適合など)があった場合、売主はその責任を負わなければならない「瑕疵担保責任」として、買主に損害賠償請求や契約の解除は認められていましたが、どのような場合に修補や代替物の引渡しなど完全な履行を請求することができるかについて争いがありました。また、代金の減額請求をすることは限られた場合しか認められていませんでした。また、瑕疵の発生については引き渡し後の期限は定められていませんでした。(権利行使は消滅時効により債権成立から10年で消滅、瑕疵発見後は瑕疵を知ってから1年以内に請求しなければなりませんでした)そして売主の故意・過失を問わない無過失責任とされていました。
瑕疵担保責任は任意規定とされており、契約に内容によっては売主の責任の一部を免除することが可能でした。
売主が引き渡した目的物が種類や品質の点で契約と異なっていたり数量が不足していた場合(契約に適合しなかった場合)の売主の責任
民法改正によりこれまでの「瑕疵担保責任」という文言は使用されず、「契約の内容に適合しないもの」という表現になります。売主の担保責任は「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」となりました。「契約責任」は=「債務不履行責任」に統一されたため、契約不適合責任は特定物・不特定物を問わず適用され、契約不適合の対象は原始的瑕疵(契約締結時までの瑕疵)に限られず、契約履行時までに生じたものであれば契約不適合責任を負うこととなります。損害賠償請求は売主の過失責任となりました。
これまで、買主の救済方法としては信頼利益(契約が有効に成立したと誤信することで生じたコスト)に限られる損害賠償責任と、契約の目的を達成できない場合の契約の解除のみでしたたが、信頼利益だけでなく履行利益(その契約がきちんと履行されていればその利用や転売などにより発生したであろう利益)も損害賠償の対象となり、それに加えて瑕疵の修補や代替物の引渡しなどの完全履行の請求や代金の減額請求ができるようになりました。解除の要件も、改正前の「契約の目的を達成できない場合」という制限がなくなり解除がしやすくなりました。ただし解除をするためには原則として追完の請求が必要です。代金の減額請求をする場合も履行の追完を催告し、催告期間内に履行の追完がない場合に請求することができます。
売主は、移転すべき権利の内容に関して契約の趣旨に適合するものを移転する義務を負うことから、権利の全部又は一部を移転しない場合にも、目的物が契約内容に不適合であった場合と同様に、買主は、追完請求、代金減額請求、債務不履行による損害賠償請求及び契約の解除の請求をすることができます。
しかし、民法改正後も契約不適合責任は任意規定であり、契約によって売主の責任を制限する特約も可能です。売主の追完方法の選択権を排除する特約も可能です。
買主の権利の期間制限
これまで瑕疵を理由とした損害賠償請求及び、契約解除請求は瑕疵があることを知ってから1年以内に権利行使しなければならないとされていました。
民法改正後は種類または品質に関する不適合を理由とする追完請求(目的物の修補、代替物の引渡し、不足物の引渡し)は、買主が契約不適合を知った日から1年以内に通知をすればよく、数量や移転した権利に関する不適合とする権利行使には期間の制限が定められていません。
売主が契約内容の不適合につき、悪意、重過失のときは、期間制限は適用しません。
ただし、消滅時効に関しては権利者(買主)が権利行使できるときから10年経過したときと、権利者が権利行使できることを知ったときから5年が経過したときも消滅時効にかかることとなります。
買主の責めに帰すべき事由があっても救済されるの?
買主に帰責事由がある場合は、損害賠償請求、契約の解除、追完請求、代金減額請求はできません。
しかし、双方に帰責事由がない場合、損害賠償請求をすることはできませんが、契約の解除、追完請求、代金減額請求をすることができます。
売主に帰責事由がある場合は、損害賠償請求、契約の解除、追完請求、代金減額請求をすることができます。
売買契約の今後の注意点
今回の民法改正により買主にとって、売主の責任を追及しやすくなりました。しかし当事者の合意により変更できる「任意規定」であるため、買主は売買契約の際に変更を求められることが考えられます。売主から提示された契約書をきちんと理解せず同意することがないようにしなければなりません。
売主はこれまでの契約書の文言を修正し、取引の実情や、リスクの発生、相手方との関係などを考慮することが必要です。
当事者間であらかじめ合意しておくことによりより柔軟な責任追及を協議することがが可能となりました。
争いを避けるために、契約書に目的物の品質、仕様、数量などを具体的に定めておくことが大切です。
注意:民法以外の法律で契約不適合責任の免責が制限されているもの
●消費者契約法により、事業者と消費者の契約について事業者の債務不履行により生じた損害賠償の責任の全部を免責し、又は事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項の無効
当該事業者・その代表者またはその使用する者の故意または重大な過失による債務不履行による損害賠償の責任の一部を免除し、又は事業者にその責任の限度を決定させる権限を付与する条項の無効
●宅建業法により宅建業者が売主となる土地・建物の売買において期間についてその目的物の引渡しから2年以上となる特約をする場合を除き、民法566条の規定より買主に不利になる特約をしても無効